税務情報
2.子供のいない夫婦は遺言書をつくろう
いまから約20年前の話です。Aさん(60歳)と妻Bさん(55歳)は、従業員を数人雇い牛乳販売店を営業していました。夫妻は土地約600坪、預金約1000万円、貸家、貸アパート10軒を所有していましたから家賃収入もあり、まあまあの生活ぶりでした。ところが、Aさんは若いときから持病があって身体が弱く、子供もいませんでした。
そしてある日、Aさんは病院に入院。Bさんの献身的な看病にもかかわらず、1ヵ月後に医者から余命少ない旨を宣告されました。ところでAさんは、入院中に何回となくBさんに次のようなことを話していたというのです。
「結婚してからもう30年以上になるが、長い間お前に世話をかけた。病気がちの俺によくつかえてくれた。子供もいないことだし、俺の財産は全部お前にやるから、俺が死んだならそれで生活しなさい」
Bさんはその言葉を信じて、Aさんの財産は全部相続できると思っていました。そして数日後、Aさんは病院で亡くなりました。葬儀も終わり、初七日、四十九日も過ぎたころ、Aさんの弟・Cさん(数年前に死亡)の長男というDさん(甥)から電話があり、相続財産の件で相談したいと申し入れてきました。
当時、Dさんは25歳のサラリーマンで、アパート暮らしでした。AさんとCさんとは生前から仲が良くなく、ほとんど付き合いもありませんでした。Aさんの兄弟はAさんを含めて3人でしたが、長兄は資産家だったので快く相続放棄をしてくれました。一方、Dさんは相続放棄をせず財産をもらいたい旨の意思表示をしたのです。
Aさんの生前中は、Cさんの住居が遠隔地で兄弟でも付き合いがほとんどないため、BさんはDさんとは会ったこともなく顔も知りません。そのDさんが、ある日Bさんの家を訪ねてきました。もちろん相続の件です。そして「土地を100坪もらいたい」とのこと。
Bさんは「あなたのことはあまり知らないし、土地は自宅と貸家アパートの敷地になっているので、現金100万円で承諾してください」と話しましたが、Dさんは納得しません。その後も執拗に要求をつづけてきます。
遺産分割協議書には実印が必要となりますが、印鑑を1人でも押さない状態でこのままにしておくと相続人全員の共有になってしまうことがわかりました。共有になると、Bさんの土地も建物も現金も、何から何まで財産の8分の1はDさんの権利がついたままになってしまいます。
Bさんは非常に困り果て、また怒り心頭に達しました。なんで顔も知らない人間に(赤の他人と同じ)、時価数千万円もする土地をくれてやらなければならないのか、と。何日も悔しくて悔しくて夜も寝られないほどでした。
しかし、結局はいろいろと親戚どうしの話し合いにより、100坪をやることに決まり、Dさんはタナボタ式に数千万円の財産を得ることになりました。ちなみにDさんは1年もしないうちに、この土地を不動産屋に譲渡しています。
その間、何回も私の事務所にきて涙を流して何とかならないと相談を受けました。しかし、遺言書がない以上、相手の主張どおりにするほかないと説得するしかありませんでした。
夫婦に子供がないときは、生前に遺言書を作成しておきましょう。そうすれば、このような悔しい思いをしないで、夫の財産を全部相続できます。これは、本当に気の毒な話でした。
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